サイエンスねた(仮称)

発電技術特集

第2回 核分裂と核融合(長いよ)

 前回「常温核融合は結局ダメでした」ということを書いたわけですが,
では本当の核融合をやるにはどうしたらいいかということを書きます.
しかし話の順番として,先に核分裂を書いてみようと思います.


核分裂と原子炉

 みなさん学校で習ったと思いますので,簡単に書きます.原子の中に
は,中性子がぶつかると分裂しやすいタイプの,比較的重めのものがあ
ります.ウランとかプルトニウムとかいうのがそうです.
 で,ウランとかが分裂したときに,核力というエネルギーの他に,一
緒に中性子を出します.この中性子が他のウランとかにぶつかる.そう
するとまた分裂する.中性子が出る.また他のウランにぶつかる……と
いう,分裂の連鎖反応が起きます.自発的に(つまり,ほっといても)
分裂が続く状態を「臨界」と言います.

 純度の極めて高い放射能物質を使って,この分裂反応を一気に起こす
というのが,「原子爆弾(原爆)」です.飛行機(最近ではミサイル)
に搭載できるぐらいの大きさでも,ひとつの都市を壊滅させるに足るエ
ネルギーを放出できるわけです.
 ただ,原爆のように,高濃度の核物質を一気に反応させることに比べ
ると,発電に使うような,穏やかな(原爆に比べたら,の話ですが)核
分裂の連鎖,つまり臨界を持続させることは,技術的に難しいようです.

 臨界状態をずっと持続させるためには,ウランとかに「適当な速さで」
中性子をぶつけなくてはいけません.そこで,中性子を減速するための
材料を炉の中に入れます.これを「減速材」と言います.それから,発
電に使うために,熱を取り出す必要があります.このための材料を「冷
却材」と言います.
 もっと重要な装置があります.何らかの理由で,核分裂を弱めたい場
合や,発電を止めなければならない場合がありますが,その時に中性子
を減速しまくるための装置を「制御棒」と言います.中性子を吸収する
物質を詰め込んだ棒を,燃料棒の間で出し入れして出力を調整する訳で
す.


減速材と冷却材

 減速材としては,前回説明した「重水」が最適で,実際に「重水炉」
というのもあるんですが,重水は結構お値段が張る(1リットル1万円
ぐらいだそうです)ので,そこは軽水(まあ,普通の水です)で代用し
ているところが多いようです.実際,現在日本で運用されている原子炉
は「軽水炉」がほとんどです.軽水が減速材と冷却材を兼ねた構造にな
っています.
 冷却水の温度が上がると,水の密度が小さくなります(*1).そうなる
と中性子が減速されにくくなります.それと,燃えにくいウラン238が
中性子を吸収しやすくなります.こうなると,核分裂が起きにくくなり
ます.温度が下がると逆の現象が起きて,核分裂が起きやすくなります.
こうして,核分裂反応がある一定レベルのところに収まるようになりま
す.これを「自己制御性」と言います.ある種の原発では,水(減速材
兼冷却水)が沸騰して少なくなるので,中性子が減速されなくなって,
核分裂が弱まるので,暴走するようなことはない,とされています.
 チェルノブイリ事故が起きたときに,日本の原発関係者が「いや,ウ
チは大丈夫ですから」というようなことを言ったのは,格納容器がある
こと(チェルノブイリには格納容器がなかった)に加えて,この自己制
御性があるから,比較的安全だということのようです.

(*1)これをボイド効果といいます.


原子力関連事故

 チェルノブイリ原発は,ロシアの原発でも古めの設計で,格納容器が
ない(*2),減速材が黒鉛である(*3),安全対策がしっかりしていない
(ていうか,安全装置を手動でオフできた),といった欠点があるんで
すが,驚いたことに同型の炉が未だに何基か稼働しています.周りの国
は「危ないから止めろ」と言っているんですが,「代わりの発電手段が
ない.これを止めたら大規模な停電が起きるからヤダ」とか言って,止
めようとしないそうです.2000年問題も,ロシアの原発に限っては,
「もしかしたら,あるのではないか」と言われていたようですが,大変
おそろしい話です.

(*2)容器がある炉でも,かなり中性子脆性が進行していると言われてい
ます.
(*3)自己制御性(後述)がありません.ちなみに,身近な黒鉛といえば
「えんぴつ」です.

 チェルノブイリ事故の際,現場に駆けつけた人たちは全員死亡してい
ますが,彼らの墓は鉛でできています.二次汚染を防ぐためです.この
「鉛の棺」の写真を見た時は,鳥肌が立ちました.

 ところで,日本の原発関係各社は「日本の電力は40%が電子力発電に
よるものです」と言っていますが,ロシアが原発を止めない言い訳と,
論理の点ではあまり変わらないように思います.「高い割合で原発に依
存しています,代替技術はありません,だからもっと原発を建てます」
という訳です.でも,発電している割合が何%だろうが,本質的な安全
性に変化はなく,むしろ全体としての事故発生率は上昇するはずです.
また,原発関係者は,発電関係の新技術が発表されても,決まって「原
発の代わりにはなりませんね」などと発言します.少し不思議だと思う
のは,私だけでしょうか.
 日本においては,エネルギーのほとんどを輸入に頼らなければならな
いと言う特殊な状況があるので,原発を全部止めたら即エネルギー危機
になるのは認めざるを得ませんが,今の日本の原子力の状況はずさんす
ぎるように見えます.建てちゃった原発を動かさなきゃいけないのは,
もう仕方がないとしても,せめて事故が起きないように運用してよ,と
いうのが率直な感想です.
 また,最近の事故と言えばJCOの臨界事故ですが,これもかなり詳細
に報道されましたので,ここで詳しく解説するのはやめておきます.と
にかく,手順を守っていれば,臨界が起きないようにいろいろとリミッ
ターが働いて,比較的安全だったはずなのに,「納期が守れないので」
という理由で,手順をすっ飛ばした結果があれだった訳です.世界的に
見て,かなり恥ずかしい事故だと思います.

 事故が起きても「ウチは安全ですから」と発表したり,その割には事
故が減らなかったり,原発を建てようとするときに,その土地に露骨な
投資をしたりと,技術的にはともかく,それを運用している人間の方は
未だに信用できないように見えるのが,日本の原子力発電の最大の問題
でしょう.これは日本に限った話ではないのかも知れませんが…….
 ドイツなど,先進国でも数カ国が,「近いうちに原発を全面廃止する」
という方針を打ち出しています.未だに原発をポコポコ建てているのは,
日本と韓国ぐらいです.もうそろそろ,再考の時期にきているように思
います.


核融合

 核分裂炉に対して,もっと強大なエネルギーを,しかも(核分裂と比
べて)安全に取り出そうというのが,核融合炉です.

 核融合をエネルギー源として使うのは,核分裂と比べてとても難しい
技術です.核融合は,地上では「水素爆弾(水爆)」としてすでに実用
化(?)されていますが,発電に使うためには,一定の出力を持続させ
るという必要性が出てきます.
 要約して書きますが,核融合を起こすためには,原子核同士を一定以
上の強さで衝突させなければいけません.しかし,正電荷を持つ原子核
同士というのは,お互いに反発し合うので,十分高いエネルギー状態で,
高密度に燃料(重水素と三重水素とか)をプラズマ状にして閉じこめて,
衝突するチャンスを増やす必要がある訳です.
 いま研究されている核融合炉は「トカマク」(*4)と言います.燃料の
プラズマが外に逃げ出さないように,炉のまわりに強力な電磁石を置い
て,燃料をドーナツ状に閉じこめる訳です.日本にも「JT60」という研
究用トカマク炉があります.しかし,実用化への課題が多すぎるため,
国際的に協力しながら開発していこうということで,「国際熱核融合実
験炉(ITER)」を作ろうという15年計画が進行中です.

(*4)「トロイダル磁場容器」をロシア語で書いた時のつづりから取った
名前だそうです.


核融合燃料

 核融合の燃料は水素です.正確に言うと,重水素(デューテロン)と
三重水素(トリチウム)です.重水素は事実上無尽蔵ですが,重水素だ
けで核融合を行うのは,三重水素を併用する場合に比べて格段に難しい
です.そういう訳で,トリチウムだけは最初に作る必要があります.
 核融合炉の運転中は中性子が死ぬほど出ますが,リチウムを周りに置
いておけばそれが中性子を浴びてトリチウムになるので,周りにリチウ
ムを置いておこう,という計画もあるようです.


核融合の安全性

 核融合炉では,炉の中の燃料は極めて少ないので,暴走しても燃料が
すぐ燃え尽きるとのことです.
 ただ,放射性廃棄物は少ないとは言え,出ることは出ます.あと,中
性子もぶりぶり出ますのでそれを止める対策が必要になる訳ですが,壁
面は高エネルギーの中性子がぶちあたって放射化するので,その対策が
どうするかというところも開発の焦点になっているようです.なるべく
放射化しないような材質を開発するとか.このあたりの工学的な問題が
解決されないことには,実用化にはほど遠いと思われるわけです.「動
かしてみないと分からん」という面もあるようで,実用化にはあと30~
50年程度かかると考えた方がよさそうです.
 それを実験しようという実験炉ITERも,北海道の苫小牧に誘致しよう
という動きがあるようで,またそれに反対する動きも当然あるようです.
国内では他に青森県に誘致の動きがあり,海外ではカナダとイタリアが
誘致しようとしているようです.


まとめ

 核分裂だろうが核融合だろうが,けっきょくはでっかい湯沸かし器で
す.こう書くと,関係者はさぞ怒ることと思いますが,事実,核分裂で
発生した熱で水蒸気を作って,それでタービンを回している訳で,そう
やってみると,原子力発電も火力発電も「でっかい湯沸かし器」に違い
はありません.
 たとえば石油なら140t要るところ,ウランなら30tで済むという発表
がありますが,それは重さに注目した場合の話であって,単位エネルギ
ーあたりの効率で見ると,実はディーゼルエンジンやガソリンエンジン
などよりも低く,30%程度と言われています.
 こういう,いったん水蒸気を作ってタービンを回すような発電を「間
接発電」と言います.それに対して,なんらかの反応から直接電力を取
り出すことを「直接発電」と言います.規模が小さくて済む直接発電装
置としては,みなさんご存じの太陽電池がありますが,最近は燃料電池
が大きくクローズアップされてきました.そういうことで,次回は「直
接発電」について触れてみます.